米国防総省GenAI.mil:軍用AI基盤の本格稼働と国際安全保障への影響

米国防総省(DoD)が2025年12月9日にローンチした軍用生成AI基盤「GenAI.mil」が、本格的な運用フェーズに入りました。わずか2ヶ月で110万のユニークユーザーを獲得し、6軍種中5軍種が公式エンタープライズAIプラットフォームとして採用するという、前例のない速度で普及が進んでいます。本記事では、GenAI.milの技術アーキテクチャ、セキュリティ設計、搭載AIモデル、そして国際安全保障と日本企業への影響を詳しく解説します。
GenAI.milとは何か
GenAI.milは、米国防総省の最高デジタル・人工知能責任者室(CDAO)が主導する、軍用エンタープライズ生成AIプラットフォームです。約300万人の軍人・文民職員に対して、フロンティアAIモデルへのセキュアなアクセスを提供することを目的としています。
従来、国防総省の職員が生成AIを業務に活用する際には、商用ツールの利用によるデータ漏洩リスクが大きな障壁でした。GenAI.milはこの課題を根本から解決し、管理された非格付け情報(CUI)を安全に処理できる環境を実現しています。
GenAI.milの基本データ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| ローンチ日 | 2025年12月9日 |
| 運用主体 | CDAO(最高デジタル・人工知能責任者室) |
| 対象ユーザー | 約300万人(軍人・文民職員) |
| ユニークユーザー数 | 110万人以上(2026年2月時点) |
| 採用軍種 | 陸軍、海軍、空軍、宇宙軍、海兵隊(沿岸警備隊を除く5軍種) |
| セキュリティレベル | Impact Level 5(IL5) |
技術アーキテクチャとセキュリティ設計
GenAI.milの最大の特徴は、Impact Level 5(IL5)に準拠したセキュリティアーキテクチャです。IL5は米国防総省のクラウドセキュリティ基準において、管理された非格付け情報(CUI)および国家安全保障システムに関するデータを扱える水準を意味します。

セキュリティの主要要素
- ソフトウェア定義のソブリンクラウド環境: FedRAMP High認証を取得したクラウド基盤上で稼働し、政府専用の隔離環境を構築
- データ隔離保証: プラットフォーム上で処理されたデータは、AIベンダーの商用モデルの学習には一切使用されない設計
- 監査トレイル: 全ての利用ログを記録し、コンプライアンスと監査に対応
- ゼロトラストアーキテクチャ: アクセス制御を厳格に実施し、不正利用を防止
搭載AIモデルのマルチベンダー戦略
GenAI.milは、単一ベンダーへの依存を避けるマルチモデル戦略を採用しています。
- Google Gemini for Government(2025年12月〜):ローンチ時から搭載された最初のモデル。Google CloudのIL5認証済み環境で稼働
- xAI Grok(2025年12月〜):ローンチ直後に追加。テキスト分析と対話機能を提供
- OpenAI ChatGPT(2026年2月〜):最新の追加モデル。300万人の軍事ユーザーへのChatGPT提供が発表済み
- Anthropic Claude(今後予定):将来的な統合が公表されている
このマルチモデルアプローチにより、ユーザーはタスクに応じて最適なAIモデルを選択できます。
主な利用用途と運用上の課題
想定される業務利用
GenAI.milは、以下の業務領域での活用が進んでいます。
- 情報分析・インテリジェンス支援: ドローン映像の分析、文書ファイルの解析、調査研究の効率化
- 作戦計画立案支援: シナリオ分析とリスク評価の高速化
- 訓練シナリオ生成: 多様な戦闘シナリオの自動生成
- 文書作成・翻訳支援: 多言語対応の報告書作成と翻訳業務の効率化
- ロジスティクス最適化: 補給計画と資源配分の最適化
現時点での運用課題
急速な展開の一方で、運用上の課題も報告されています。特にファイルの永続的管理機能が欠如しており、新しいクエリごとにドキュメントを再アップロードする必要がある点は、迅速な分析が求められる状況において障壁となっています。
防衛産業とAIベンダーへの影響
GenAI.milの本格稼働は、防衛産業とAIベンダーの双方に大きな影響を与えています。

AIベンダーへの影響
米国防総省という巨大顧客の出現は、AIベンダー各社にとって新たな収益源となると同時に、厳格なセキュリティ要件への対応が求められます。Google、OpenAI、xAI、Anthropicの4社がGenAI.milに参画することで、軍事用途における各社モデルの性能比較が行われることになります。
国際安全保障への波及
GenAI.milの運用開始は、国際的な軍事AI競争を加速させる要因となっています。中国は既に軍事AI分野で独自の開発を進めており、NATOを含む同盟国も同様のプラットフォーム構築を検討していると見られます。AIを活用した軍事能力の格差が、今後の安全保障環境を大きく左右する可能性があります。
日本企業への示唆
防衛省のAI活用基本方針
日本の防衛省は2024年7月にAI活用基本方針を初めて策定し、7つの重点領域を特定しました。
- 目標検知・識別
- 情報収集・分析
- 指揮統制(C2)
- 後方支援
- 無人アセット
- サイバーセキュリティ
- 事務効率化
また、防衛装備庁(ATLA)はDARPAをモデルとした防衛イノベーション科学技術研究所を設立し、AIとロボティクスの専門人材を含む約100名体制で活動しています。日米間では、次世代戦闘機GCAP向けの「ロイヤル・ウィングマン」無人航空機AIの共同研究(SAMURAIプロジェクト)も進行中です。
デュアルユース技術の事業機会
GenAI.milの事例は、日本企業にとっていくつかの重要な示唆を含んでいます。
- セキュアAI基盤のニーズ拡大: IL5相当のセキュリティ基準を満たすAIプラットフォームの需要が、防衛分野だけでなく官公庁全体で高まる可能性
- マルチモデル統合の重要性: 単一ベンダーに依存しないAI戦略の採用が、リスク分散と機能最適化の観点から重要に
- デュアルユース技術開発: 軍事と民間の双方で活用できる技術(セキュアクラウド、データ隔離、監査機能)への投資機会
- 日米防衛AI協力: SAMURAIプロジェクトなど、日米共同のAI開発案件への参画機会の拡大
今後の展望
GenAI.milは今後、さらなる機能拡張と能力向上が予定されています。
短期的な展開(2026年前半)
- Anthropic Claudeの統合完了
- エージェント型AIツールの導入
- ファイル管理機能の改善
- 格付け情報への対応範囲の拡大検討
中長期的な方向性
- 戦場におけるリアルタイムAI意思決定支援
- 自律型システムとの連携強化
- 同盟国との相互運用性の確保
- 責任あるAI利用のためのガバナンスフレームワークの発展
軍用AI基盤の本格稼働は、AIが安全保障分野においても不可欠な技術インフラとなったことを明確に示しています。この動向は、防衛関連企業だけでなく、セキュアなAI環境の構築に携わる全てのIT企業にとって注視すべき変化です。
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